ARの診断し、重症度を評価する中で心機能も重要な要素として診断基準の中に加えられています。
AHAのガイドラインの中では、左室の駆出率(LVEF, left ventricular ejection fraction)と左室の収縮末期径(LVESD, left ventricular end-systolic diameter)によって評価されています。
左室の収縮末期径は、左室の収縮機能と後負荷によって決定しますので、ARで多少増加する後負荷(1回拍出量が増加することで、駆出する血液の増加自体が後負荷となります)と、ARによる強制的な容量負荷によって低下していく左室の収縮性を評価するのに、左室の収縮末期径で評価するというのは妥当であろうと思います。
今までの観察研究でも、大動脈弁閉鎖不全の重症度はもちろん、左室収縮末期径の違いによっても予後が変わる(中等度でも左室収縮末期径が大きいと予後が悪い)ことがわかっています。(1)Dujardin KS. Circulation. 1999 Apr 13;99(14):1851-7. 2) Detaint D. JACC Cardiovasc Imaging. 2008 Jan;1(1):1-11.)
もちろん、海外のデータがほとんどですので、日本人にもまるまるこのデータの絶対値が当てはまるかどうかはわかりません。そのため、少なくとも必ず体表面積補正は行うようにしましょう。海外では平均対表面積が平気で1.8m2程度であったりします。
また、左室収縮末期径は、体表面補正をすると随分とましにはなりますが、人により正常でも大きめの人がいたり、小さめの人がいたりします。
これに関して、特に注意が必要なのが、高齢の女性です。高齢女性であれば、拡張障害が合併しているために、拡張できずに、本来であれば収縮末期径を小さくすることで心拍出量を少しでも補おうとしているような人(いわゆるHFpEF)である可能性があります。このような人に関しては、左室収縮末期径が正常に近くても障害と判断すべきこともあります。
そのため、特に高齢女性で、加齢性の大動脈弁閉鎖不全の場合には、重症度が中等度で、心機能の指標が低下していないと判断される数値であっても、心不全に関する症状や臨床所見がある場合には積極的に手術の必要性を施設として検討していく必要があります。
左室駆出率は、左室の収縮性と後負荷からきまる収縮末期径(正しくは容積)に、1回の心拍出量を足した拡張末期径(LVEDD,left ventricular end-diastolic diameter, 正しくは拡張末期容積)をもとに計算されます。
LVEF=(LVEDV-LVESV)÷LVEDV=1-(LVESV/LVEDV)=LVSV÷LVEDV
(ARの時には、左室の拍出量と右室の拍出量は全く違う量になるのであえて、左室心拍出量と記載しました。LVSV;left ventricular stroke volume)
この左室駆出率が低い場合には、二通りあります。
左室の心拍出量が少ないか、左室の収縮末期容積が大きい時になります。
(ほかに、左室の収縮末期容積のわりに拡張末期容積が小さい時もありますが、これは心拍出量が少ない時といえますので、包括しました)
つまり、ARがあるのに、1回左室心拍出量が少ないのは、ARが大したことないか、心機能が低下してきて、体循環に対して有効な心拍出量(正常であれば右室拍出量)が減少しているときのどちらかです。
ARが軽症で、他の原因で心機能が低下しているときには、LVEFはもちろん低下しますし、ARによる心機能障害が進行すれば、それでもLVEFは低下します。
また、収縮性が悪化してくれば、LVESV(ここではLVESD)は拡大してきますので、それに合わせて、LVEDVを増加させれないときには、LVEFは悪化します。
特にLVEFが低下しているときには、心拍出量が低下か、逆流量がそれほどない状態ですので、特に評価基準の中でも、逆流率(逆流量÷左室の1回心拍出量)に注意して、ARの重症度評価を行う必要があります。
次回は、下のARのガイドラインの値などを踏まえてお話ししたいと思います