心不全を中心とした循環器疾患に関する単なるブログ

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AR(8):PISA法による重症度評価

Mild AR: ERO <0.10 cm2​, RVol <30 mL/beat​, 
Moderate AR:​ ERO 0.10–0.29 cm​2, RVol 30–59 mL/beat, 
Severe AR: ERO ≥0.3 cm2​, RVol ≥60 mL/beat, 
 
今回は、PISA法(Proximal Isovelocity Surface Area)法といわれる方法についてです。この項目も大半は、僧帽弁閉鎖不全のPISA法の項目と被っている内容がほとんどになりますが、一からお話ししたいと思います。
 
PISA法は、なんとなく、必要な設定をして、測定すれば結果が計算されて出てきます。一番おおもとの前提は、おそらく流体力学的の範囲で、私も理解できていません。あぁ、そうなんだと思っているくらいです。
おおもとの前提はわからなくても、前回説明した時間速度積分から計算されるいわゆる連続の式といわれるものと原理的には変わりません。
ある面におけるVTI(時間速度積分値、Velocity time integral)から、その面を通過する血流量を出します。場所(断面)が違っても、連続していれば時間当たりに通過する血流量は同じなので、時間当たりの通過血流は同じ値であるとして、計算して面積を出すということです。
 
連続の式は、1心拍の収縮期に拍出される血流量の測定であり、PISA法は、時間的には、収縮期ということ0.何秒という時間になり、PISAの面積を出す過程では、時間当たりというよりも、ごく短い一瞬あたり(瞬時)の通過血流であるということを前提としています。
 
 
では、始めます。
大前提の物理学的な前提は、私は理解できないのですが、ある空間(大動脈)から違う空間(左室)へ狭い孔(大動脈弁閉鎖不全の部分:大動脈弁の拡張期の開口面積)を流体が通過するときに、加速血流となりますが、その孔を通過する前に、半球状の吸い込み血流が形成されます。吸い込み血流は、その孔が円であれば、孔の中心を中心にした半球となり、その半球の表面での通過血流速度は一定であるので、その速度と半球の表面積から、その半球表面という断面を通過する血流量が測定できるということを前提としています。
この理屈から、PISA法というのものが成立します。(こういう理論が実際に応用できているのはすごいことだと思います)
 
傍胸骨でも、心尖部からの3や5腔像でもいいのですが、大動脈弁閉鎖不全の逆流ジェットの大動脈側によくみると通常の設定でも半球状の吸い込み血流がみられます。
このカラードプラーをみているときに、心尖部からみているときにはカラーのベイスラインを上のほうに上げていって、35cm/sあたりになるようにします。傍胸骨では下げます。
たぶん、標準では、60cm/sあたりで上下同じ値になっていると思いますが、この境界線を下に下げていきます。(上下35cm/sに落とすのではなく、カラーの境界線を上か下に動かせます)
なぜ35cm/sあたりにするかというと、おそらく吸い込みの面を通る血流がこのくらいの速度だからだと思います。
 
カラーのベイスライン(ゲインではありません)を調整して、35cm/s程度にカラードプラーをすると、大動脈弁の孔を中心にしたカラー信号が赤から青へ変化する境界面(傍胸骨では逆)が、半円状にくっきりとみえます(実際は半球ですが)。巷では、この半円(実際は半球)のことをPISA玉といいます。このPISA玉の一番外側の速度が、この設定した35とか37とかいう速度です。つまり、「吸い込み血流の半球(PISA玉)の一番外側の速度」=「カラードップラーの設定値」ということになります。
何気なしに、設定している方も多いかもしれませんが、この値は、PISA玉の一番外側の通過血流の速度なんだということです。これは、時間にかかわらず一定の値と仮定しています。瞬時血流量が一定ということです。
 
ここで、PISA玉の中心から折り返しの一番外側の距離を測定すると、その距離を半径として、球の表面積の公式から、吸い込み血流(=PISA玉)の表面積が計算されて、これにこの面を通過する血流の速度を掛け算することで、PISA玉の外側を通過する時間当たりの血流量が求められます。
球で考えるから、ややこしいですが、面を通過する時間当たりの血流量を求めて、血流量は一定として、別の面の面積を求めるというのは、根本的には他でもやっていることです。
 
一度計算します。
r=(PISA玉の距離=半径)とすると、
PISA玉の表面積(ただしくは外側の球体の部分だけの面積で、切断面は含みません)=球体の表面積(4πr2)÷2(半球なので)=2πr2
となります。
これに、PISA玉の表面を通過する血流は一定で、設定したカラードプラーのベースラインの値となりますので、
PISA玉の表面を通る血流=(上で求めた表面積)×(カラードプラーのベースラインの値)
となります。
 
例えば、PISA玉の距離(半径)を1cmとして、設定したカラードプラーのベースラインの値を36cm/sとすると、
PISA玉の表面を通る血流=(2×3.14×1cm×1cm)×(36cm/s)=226cm3/s
となります。
つまり、時間当たりPISA玉の表面を通過する血流=左室から左房へと吸い込まれてくる時間当たりの血流は、1秒間あたりで226cm3という量になります。
(理論的にはこれに収縮期の時間をかければ逆流量は出そうなものですが、そうはしないようです)
(例えば、収縮期が0.3秒(=心電図のQT時間で概算したとする)だとすれば、逆流量はおおよそ67.8mlになります)
 
 
次に、連続波ドプラーを大動脈弁逆流のカラーにあてて、大動脈弁逆流の最高速度を求めます。
かなり速度は速く4m/sとか、5m/sとかになると思います。ここでは、5m/s(=500cm/s)としておきます。
 
大動脈弁逆流の原因となる弁の孔の部分が、この血流が通過する経路の中で最も狭い部分になります。
その狭い部分を通っているときが最高血流速度になっているはずと思ってしまいますが、実は、確かに最も狭いのは、弁の部分ですが、流体的に最も収束するのは、その少し先であるため、実際にはPISA法では、弁の閉鎖不全部分ではなく、その少し左室流出路側の最も逆流が収束する部分の流体の断面積を計算していることになるので、有効弁口面積という表現になります。ちなみに、vena contractaを測定している部分と同じです
つまり、連続派ドプラーで測定した5.0m/sという速度の血流は、大動脈弁閉鎖不全の原因となる孔を通過している血流の最高速度となりますが、実際には少し先の部分をみていることになります。
 
ただ、ここでは、少しややこしいので、大動脈弁の閉鎖不全の逸脱部分の断面積を求めていると表現します。
 
孔の大きさは変化しないと仮定しています。大動脈弁逆流の通過血流の最大値が、PISA玉を形成する因子となっているはず(速度なのか、圧較差なのかはわかりません、すいません)ですので、
(PISA玉の表面を通る血流)=(吸い込み血流)=(大動脈弁閉鎖不全の原因となる孔の面積)×(大動脈弁通過最高血流速度)
 
ここで求めたいのは、大動脈弁閉鎖不全の原因となる孔の大きさ(断面積)です。そのため、変形すると
(大動脈弁閉鎖不全の原因となる孔の面積)=(PISA玉の表面を通る血流)÷大動脈弁通過最高血流速度
となります。
 
先ほど仮定した300cm/sという値を用いて計算すると、
大動脈弁閉鎖不全の原因となる孔の大きさ=226cm3/s÷500cm/s=0.45cm2
となります。つまり、大動脈弁閉鎖不全の原因となる孔の大きさは、0.45cm2と求められました。
 
この孔の大きさのことを実際の孔の大きさではなく、あくまで最高血流が生じている部分の面積であることから、実際の面積よりは少し小さめに出ていると予想され、先ほどお話ししたように、有効表面積(effective regurgitant orifi ce area: EROA)といわれます。
 
さらに、孔の大きさが求められると、そこを通過する血流のVTI(時間速度積分値)を掛け算すると、通過する血流量が求められます。
EROAをもとめる計算中は、瞬時あたりとして、心臓の収縮期の時間の極々短い時間として計算してきましたが、ここからは、心室の収縮期の時間が入ってきます。VTIは、先ほど求めた連続波ドプラーで求めた大動脈弁逆流の逆流波のVTIを測定します。
ここでは、120cmとします。(時間速度積分なので、時間の単位(/s)がとれました)
 
(大動脈弁逆流の血流量)=(大動脈逆流の原因となる孔の大きさ)×(そこを通過する血流のVTI)
 
となりますので、先ほど設定した値を代入して、
(大動脈弁逆流の血流量)=0.45cm2×120cm=54cm3=54ml
 
となりました。
吸い込み血流の物理学的な特性を利用することで、このような計算が成立します。
 
この方法の注意点は、絶対的な前提の仮定として、拡張期に大動脈弁閉鎖不全の原因となる孔の大きさは変化せず、また、常に孔は円であり、そのためにPISA玉もきれいな半球であるといことが前提となっています。
 
つまり、PISA玉が拡張期にずっと同じ形態ではない、つまり、孔の面積自体が変化するようなときには、この方法による逆流量は正確ではないということになります。
また、正確に言うと、弁には厚みがあり、孔の面積が同じでも、携帯による圧抵抗の差はでますので、あくまで大動脈弁が厚みのない円であると仮定して計算式は成立しています。
 
さて、測定するときのコツですが、まずどの観察断面で一番きれいなPISA玉が計測できるかということが重要です。かならず一番大きくみえるところで測定しましょう。測定する時には、拡大をして、1mmの誤差もないようにしっかりと測定することを心がけましょう。
 
 
測定する順番ですが、まず、カラードプラーのベイスラインを35cm/s程度に調整します。次に、PISA玉をいろんな断面で確認して、一番よい断面で、PISA玉の径を測定します。
次に、大動脈弁の逆流カラーの連続波ドプラーの速度をだして、最高速度と、VTIを計測します。
この4つの値があれば、あとは機械が自動で計算してくれますので、値がでてきます。
 
PISAは、いかにきれいにPISA玉かをだせるかどうか、測定できるかどうかが決め手です、がんばってください。
 
 
測定した後の値の評価ですが、連続の式と同じように、ERO ≥0.3 cm2​か、RVol ≥60 mL/beatのどちらかを満たしていれば、高度ということになりますが、PISAの時には、EROが重要視されるように思います。
また、ERO <0.10 cm2​とRVol <30 mL/beat​の両方を満たすときには、軽度となり、どちらかでも超えると中等度になります。