心不全を中心とした循環器疾患に関する単なるブログ

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AR(3):重症度評価とその難しさ

大動脈弁閉鎖不全の重症度の評価は、細かくは5段階にわかれますが、実質的には4段階になります。
細かく分けると、none(なし)、trace(わずか)、mild(軽度)、moderate(中等度)、severe(高度)の5段階ですが、
traceはごくわずかという感じですので、noneと合わせることが一般的で、none+traceで一つの段階になります。

AHAのガイドラインでは、none+trace、mild、moderate、severeの4段階にひとまずわけて、さらに、severeを症状のないasymptomatic severe AR、症状のあるsymptomatic severe ARとしています。

また、他のガイドラインや論文などによっては、severeを、Sellers分類 grade 3相当のmoderately severeと、grade 4相当のsevereに分けることもあります。

今まで(今でも?)、一部心エコーのカラードプラーの逆流の到達度などを基準にすることもありましたが、現在、カラードプラーの逆流の面積や到達度を基準にすることはありません。(そもそも左室の流入血流とぶつかるので評価できるはずがないのです)
唯一、noneとtraceはカラードプラーがないか、非常にわずかということでカラードプラーの面積と到達度での診断が可能です。しかし、逆流が左室の流出路を超えるようなmild以上の時は、心エコーでいくつかの指標を組み合わせて評価することが重要であり、また、どうしても心エコーで重症度評価が困難な理由があるときには、心臓カテーテル検査の大動脈造影による診断が必要です。

大動脈弁閉鎖不全症をカラードプラーでのみ評価しないようにして、まずは心エコーでの複数の評価項目を正しく測定できるようにして、それぞれの指標の限界なども意識しながら評価していきましょう。

 

 

ただ、いくつかの評価項目を駆使してもなお大動脈弁閉鎖不全症は評価の難しい弁膜症であり、かつ、手遅れになると予後の悪い心不全となります。
また、現時点での評価が正しいかどうかも、私個人はまだ定まっていないと考えています。

特に高度の時の心機能障害をもう少し正しく評価したり、中等症でも何らかの症状がある場合には手術も治療手段の一つとして考えていく必要があると考えています。
現在のAHAのガイドラインでは、moderate(中等症)のARは、他の心臓の手術のついでになら手術してもいいよとなっていて、それ以外の時には基本的には一定期間でのエコーなどによる検査を続けましょうということになっています(エビデンスがないから言及できないのかもしれません)。
ただ、私は、moderateでも心不全になっているときには、手術が考慮されるべきだと思います。手術が考慮されるというのは、一人で判断するのではなく、循環器内科、心臓外科などが集まって、手術をすればどうなるかについて、手術のリスクはどのように見積もられるかなどについて、真剣に話し合いましょうという意味だと思ってください。

限られたエビデンスの中ではありますが、エコーで診断せれる無症候性の中等症でも死亡率は決して低くないと考えられます。
そのために、有症状で、その症状が大動脈弁閉鎖不全症からきていると判断される時には、手術により根本的な治療を行うことも必要だと思われます。

もちろん、何かがあって予後が悪い因子だからといって、それを治療すればいいというのはイコールではありません。
治療することによって余計に悪くなったり、何も変わらなかったりする可能性もあります。

とにかく、中等度の有症状の大動脈弁閉鎖不全症のエビデンスが少ないように思います。症例の蓄積が必要だと思います。