心不全を中心とした循環器疾患に関する単なるブログ

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AS(1): 大動脈弁狭窄症の原因

大動脈弁狭窄症(AS, Aortic valve stenosis)に関してですが、大動脈弁狭窄症は、この10年でもっとも劇的に治療が変化した疾患です。
 
 
大動脈弁狭窄症は、左室と大動脈の間にある大動脈弁が何らかの理由で開放が制限されるようになっている疾患です。
 
大動脈弁狭窄症の原因として多いのは、加齢性変化といわれるもので、高齢者によくみられる弁の石灰化と変性による大動脈弁の開放制限です。
また、若年者から高齢者の広い年齢層に見られるのが、先天性の二尖弁です。二尖弁には、さまざまな程度というか、形態があり、ちらっと見た感じでは三尖弁かと思う程度の二尖弁から、開口の口が完全に三日月になるような二尖弁までさまざまな程度があります。
印象ですが、若年者にみられるのは、三日月のような二尖弁で、逆流を伴うことが多いように思います(極少数例の印象です)。
 
また、日本では最近著明に減少していますが、リウマチ性変化もあります。リウマチ性変化の場合には、僧帽弁にも何らかの異常がみられることが特徴です。今後、外国で生育した若者が増えると、また、再燃してくれるかもしれません。
 
少し意識していてたらいいかなと思うのは、大動脈炎症候群などに伴う大動脈弁疾患です。この場合には、大動脈のかなり広範囲に炎症が及びます。大動脈基部の異常から弁閉鎖不全が起こることが多いですが、弁にも炎症性変化が及んで、狭窄が生じることもあります。
 
 
さて、大動脈弁狭窄症の心不全となる原因は、左室の圧負荷です。
左室が出口が絞られ、そこで圧・エネルギーが消耗しますので、余分に圧を加えて血液を駆出しなければならなくまります。
そのために、左室が高い圧をかけて、血液を駆出し続けることによって左室は肥大し、内腔は狭小化していきます(ラプラスの法則によります)。
 
大動脈弁の治療後には、この圧負荷から解放されて、徐々に左室の肥大が軽減し、内腔の狭小化も改善してくることがありますが、左室の機能低下が起こってしまっている場合には、左室の機能低下が改善するか、そのまま低下したままかは、弁の治療をしてみないとわからない部分があります。
(心臓力学的に、後負荷が増加すれば左室の収縮末期径は増加しますが、慢性的な圧負荷は組織学的に左室の内腔の狭小化をもたらします#1)
 
これは、どのような理由で心筋が肥大しているかということもあります。
特に、加齢性変化の場合には、心筋に加齢性のアミロイドーシスによる変化が一定数起こっていると報告されており、アミロイドーシスによる心機能低下自体は改善しません。
ただ、低心機能に、高い後負荷は致命的ですので、心機能の改善がなくても、より大動脈弁狭窄症の治療は必要ということになります。
 
大動脈弁狭窄症に対する一般的な考え方は、大動脈弁の狭窄の程度は進行性で、何らかの症状が出るとそこから一気にいろんなことがおこるということです。
そのため、早期発見と適切な時期での治療介入が必要です。
 
 
#1 左室の収縮末期径は、後負荷と収縮性によってきまりますので、後負荷が改善されれば収縮末期径は小さくなりますが、肥大している場合には、これの収縮末期径の後負荷変化当たりの変化は小さくなります。(肥大していると収縮性が同じでも後負荷当たりの変化率が小さくなるため)
このために、弁膜症治療後、負荷が取れた割に、左室収縮末期径に変化がみられないということになります。