心不全を中心とした循環器疾患に関する単なるブログ

心不全について私が知る・思うすべてのこと

僧帽弁閉鎖不全症:PISA法とは?

 PISA(Proximal Isovelocity Surface Area)法
 (4800文字、いつもの2-3倍あります)
 
(逆流量:重症 60ml、60ml > 中等症 30ml、30ml>軽症)
(有効弁口面積:重症 ≧ 0.4cm2、0.4cm2 > 中等症 0.2cm2、0.2cm2>軽症)
 
今回は、PISA法といわれる方法についてです。なんとなく、必要な設定をして、測定すれば結果が計算されて出てきます。一番おおもとの前提は、おそらく流体力学的の範囲で、私も理解できていません。あぁ、そうなんだと思っているくらいです。
おおもとの前提はわからなくても、前回説明した時間速度積分から計算されるいわゆる連続の式といわれるものと原理的には変わりません。ある面におけるVTI(時間速度積分値、Velocity time integral)から、その面を通過する血流量を出す。場所が違っても、連続していれば時間当たりに通過する血流量は同じなので、時間当たりの通過血流は同じ値であるとして、面積を出すということです。
ただ、PISAの面積を出す過程では、時間当たりというよりも、ごく短い一瞬あたり(瞬時)の通過血流を前提としています。
 
 
では、始めます。
大前提の物理学的な前提は、私は理解できないのですが、ある空間(左室)から違う空間(左房)へ狭い孔(僧帽弁閉鎖不全の部分:僧帽弁の収縮期の開口面積)を流体が通過するときに、加速血流となるが、その孔を通過する前に、半球状の吸い込み血流が形成される。吸い込み血流は、その孔が円であれば、孔の中心を中心にした半球となり、その半球の表面での通過血流速度は一定であるということです。
また、おそらくですいませんが、吸い込み血流の形は、穴が円であれば、半球となり、楕円であれば、それを反映した楕円状の吸い込み血流となるはずです。(そのため、機能的逆流では逆流の孔は長楕円になるので、本来は計算を楕円球で計算しなければならないのですが、そもそも孔の径が小さすぎて計測ができないので、楕円球の計算は無理なのです)
この理屈から、PISA法というのものが成立します。(こういう理論が実際に応用できているのはすごいことだと思います)
 
一次性僧帽弁閉鎖不全でみていくと、僧帽弁の閉鎖不全の原因となる孔、つまり、カラードプラーで僧帽弁逆流が生じている僧帽弁の
部分を中心にして左室側に半球状の吸い込み血流が形成されます。このカラードプラーをみているときに、カラーのベイスラインを下のほうに下げていって、35cm/sあたりになるようにします。たぶん、標準では、60cm/sあたりで上下同じ値になっていると思いますが、この境界線を下に下げていきます。(上下35cm/sに落とすのではなく、カラーの境界線を下にさげます)
なぜ35cm/sあたりにするかというと、おそらく吸い込みの面を通る血流がこのくらいの速度だからだと思います。
 
カラーのベイスライン(ゲインではありません)を下げて35cm/s程度にカラードプラーを調整すると、僧帽弁の孔を中心にカラー信号が青から赤へ変化する境界面が、半円状にくっきりとみえます(実際は半球ですが)。巷では、この半円(実際は半球)のことをPISA玉といいます。このPISA玉の一番外側の速度が、この設定した35とか37とかいう速度です。つまり、「吸い込み血流の半球(PISA玉)の一番外側の速度」=「カラードップラーの設定値」ということになります。
何気なしに、設定している方も多いかもしれませんが、この値は、PISA玉の一番外側の通過血流の速度なんだということです。これは、時間にかかわらず一定の値と仮定しています。瞬時血流量が一定ということです。
ここで、PISA玉の中心から折り返しの一番外側の距離を測定すると、その距離を半径として、球の表面積の公式から、吸い込み血流(=PISA玉)の表面積が計算されて、これにこの面を通過する血流の速度を掛け算することで、PISA玉の外側を通過する時間当たりの血流量が求められます。
球で考えるから、ややこしいですが、面を通過する時間当たりの血流量を求めて、血流量は一定として、別の面の面積を求めるというのは、根本的には他でもやっていることです。
 
一度計算します。
r=(PISA玉の距離=半径)とすると、
PISA玉の表面積(ただしくは外側の球体の部分だけの面積で、切断面は含みません)=球体の表面積(4πr2)÷2(半球なので)=2πr2
となります。
これに、PISA玉の表面を通過する血流は一定で、設定したカラードプラーのベースラインの値となりますので、
PISA玉の表面を通る血流=(上で求めた表面積)×(カラードプラーのベースラインの値)
となります。
 
例えば、PISA玉の距離(半径)を1cmとして、設定したカラードプラーのベースラインの値を36cm/sとすると、
PISA玉の表面を通る血流=(2×3.14×1cm×1cm)×(36cm/s)=226cm3/s
となります。
つまり、時間当たりPISA玉の表面を通過する血流=左室から左房へと吸い込まれてくる時間当たりの血流は、1秒間あたりで226cm3という量になります。
(理論的にはこれに収縮期の時間をかければ逆流量は出そうなものですが、そうはしないようです)
(例えば、収縮期が0.3秒(=心電図のQT時間で概算したとする)だとすれば、逆流量はおおよそ67.8mlになります)
 
次に、連続波ドプラーを僧帽弁逆流のカラーに充てて、僧帽弁逆流の最高速度を求めます。
かなり速度は速く4m/sとか、5m/sとかになると思います。ここでは、4.5m/s(=450cm/s)としておきます。
僧帽弁閉鎖不全の原因となる孔の部分が、この血流が通過する経路の中で最も狭い部分になるはずですので、その狭い部分を通っているときが最高血流速度になっているはずです。
つまり、連続派ドプラーで測定した4.5m/sという速度の血流は、僧帽弁閉鎖不全の原因となる孔を通過している血流の最高速度となります。
 
孔の大きさは変化しないと仮定しています。僧帽弁逆流の通過血流の最大値が、PISA玉を形成する因子となっているはず(速度なのか、圧較差なのかはわかりません、すいません)ですので、
(PISA玉の表面を通る血流)=(吸い込み血流)=(僧帽弁閉鎖不全の原因となる孔の面積)×(僧帽弁通過最高血流速度)
 
ここで求めたいのは、僧帽弁閉鎖不全の原因となる孔の大きさ(表面積)です。そのため、変形すると
(僧帽弁閉鎖不全の原因となる孔の面積)=(PISA玉の表面を通る血流)÷僧帽弁通過最高血流速度
 
となります。
先ほど仮定した450cm/sという値を用いて計算すると、
僧帽弁閉鎖不全の原因となる孔の大きさ=226cm3/s÷450cm/s=0.50cm2
となります。つまり、僧帽弁閉鎖不全の原因となる孔の大きさは、0.50cm2と求められました。
 
この孔の大きさのことを実際の孔の大きさではなく、あくまで最高血流が生じている部分の面積であることから、実際の面積よりは少し小さめに出ていると予想され、有効表面積(effective regurgitant orifi ce area: EROA)といわれます。
 
さらに、孔の大きさが求められると、そこを通過する血流のVTI(時間速度積分値)を掛け算すると、通過する血流量が求められます。
EROAをもとめる計算中は、瞬時あたりとして、心臓の収縮期の時間の極々短い時間として計算してきましたが、ここからは、心室の収縮期の時間が入ってきます。VTIは、先ほど求めた連続波ドプラーで求めた僧帽弁逆流の逆流のVTIを測定します。
ここでは、120cmとします。(時間速度積分なので、時間の単位(/s)がとれました)
 
(僧帽弁逆流の血流量)=(僧帽弁逆流の原因となる孔の大きさ)×(そこを通過する血流のVTI)
 
となりますので、先ほど設定した値を代入して、
(僧帽弁逆流の血流量)=0.5cm2×120cm=60cm3=60ml
 
となりました。
吸い込み血流の物理学的な特性を利用することで、このような計算が成立します。
 
この方法の注意点は、絶対的な前提の仮定として、収縮期に僧帽弁閉鎖不全の原因となる孔の大きさは変化せず、また、常に孔は円であり、そのためにPISA玉もきれいな半球であるといことが前提となっています。
 
つまり、PISA玉が収縮期にずっと同じ形態ではない、つまり、孔の面積自体が変化するようなときには、この方法による逆流量は正確ではないということになります。
また、正確に言うと、弁には厚みがあり、孔の面積が同じでも、携帯による圧抵抗の差はでますので、あくまで僧帽弁が厚みのない円であると仮定して計算式は成立しています。
 
 
面積に関しては、最少になるタイミングを、何らかの方法で推定できるようになれば(物理的な法則で、シミュレーションを使えばできると思います)、そのタイミングで(タイミングは心電図でみる)、PISA玉の大きさを測定して、さらに僧帽弁逆流の最高血流を測定すればいけるかもしれません。ただ、最高血流は、孔の大きさと左室と左房の血圧の格差の最大値で決まるため、孔の大きさの最小で最高になるわけではありませんが、概算程度はできる可能性はあります。(理論的には、機能性であれば収縮末期が一番孔が小さくなるはず。収縮末期が僧帽弁輪と乳頭筋の位置が一番近くなるので)
 
また、正確な値でなくとも、重症度評価として有用であればいいわけで、値が実際の弁口面積とどれだけ近いかということは、原理主義的には重要ですが、実際の弁口面積とはかなりかけ離れた値であったとしても、予後や手術適応といった臨床的に有効な数字として、有用であればいいわけですので、この値を測定して、それが有用な指標かどうか、どの値でカットオフとすればいいかという視点も必要です。
 
さて、測定するときのコツですが、まずどの観察断面で一番きれいなPISA玉が計測できるかということが重要です。かならず一番大きくみえるところで測定しましょう。測定する時には、拡大をして、1mmの誤差もないようにしっかりと測定することを心がけましょう。結構左室2腔像がきれいにみえたり、短軸に近い像でみえたりしますので、かならず、いろんな角度からみましょう。
参考までに、1次性の場合には、PISA玉が1cm以上あれば、重症です。0.7cm以上は測定次第で、0.5cm以下は軽症よりの中等症のことが多いです。PISA玉の半径は、計算上2乗しますので、少しの値の違いが大きな違いになりますので、できる限り正確に測定するように注意しましょう。最高血流に関しては、逆流フローができる限りきれいに、ガイドビーコンと平行になるように描出して測定しましょう。
 
測定する順番ですが、まず、カラードプラーのベイスラインを35cm/s程度まで下げます。次に、PISA玉をいろんな断面で確認して、一番イン断面で、PISA玉の径を測定します。
次に、僧房弁の逆流カラーの連続波ドプラーの速度をだして、最高速度と、VTIを計測します。
この4つの値があれば、あとは機械が自動で計算してくれますので、値がでてきます。
 
PISAは、いかにきれいにPISA玉かをだせるかどうか、測定できるかどうかが決め手です、がんばってください。