僧帽弁狭窄症(mitral stenosis)
僧帽弁狭窄症は、ほとんどみなくなりました。
専門施設にいてても、治療が必要な僧帽弁狭窄症は年に数人程度でした。
僧帽弁狭窄症は、リウマチ熱後の弁の変性・硬化により生じるとされています。
広い意味での僧帽弁狭窄症は、僧帽弁治療後(閉鎖不全に対する形成術も含めて)にもみられます。また、その評価方法自体は、置換術後の人工弁や僧帽弁のクリップ術の後の評価にも応用可能です。
心不全としての特徴は、左室の拡張末期圧は正常であったり、少なくとも高くはない状態で、僧帽弁自体に圧抵抗が生じるため、平均左房圧が上昇することが主要な病態となります。
左房圧が上昇しますので、それより循環的に手前にある肺動脈圧も上昇しますし、慢性的になると右室の拡張末期圧や右房圧まで上昇します。
また、血液検査でのBNPは、主に左室の心筋細胞のストレッチ刺激により分泌されるため、ほかの心不全と比較すると、正常か、正常高値程度のことが多いです。ただ、BNP自体は心房や右室からも分泌はされるため、ある程度上昇していても、左室そのものの異常による心不全に比べれば、急性増悪の時とかでもそれほど上昇しません。
また、心房細動をしばしば併発します。ワーファリンだけの時代に、非弁膜症性心房細動=(僧帽弁狭窄症+人工弁の機械弁)であり、ほかの心疾患に合併する心房細動よりも左房圧が高く維持され、心房内の血液のうっ滞が高度となるため、ワーファリンを高濃度で維持することで、血栓症の予防を行っています。
(現在のNOAC時代には、非弁膜症性心不全=(僧帽弁狭窄症+すべての人工弁)となっています)
僧帽弁狭窄症の診断ですが、基本的には心エコーです。何らかの理由でカテーテルを行うときには、心臓カテーテル検査の値も参考になります。
心エコーでは、どの断面でも僧帽弁の開放制限が起きているので、あまり見逃さないとは思いますが、最近僧帽弁狭窄症を意識しない若い人もいて、高度の障害は見逃さないと思いますが、弁の開放制限と少しの加速血流の程度もしっかりと診断していきましょう。
特に傍胸骨左室長軸での、僧帽弁が開放しきった時に、doomingといって、弁尖が開ききらずに、弁腹がぐぅっと出ていくような所見は重要ですので、必ずチェックしましょう。
僧帽弁狭窄症自体の評価は、カラードプラーで、心尖部アプローチの画像で、左房から左室への流入血流が、エコーの連続波ドプラーのガイドビーコンと方向がきっちりとあう断面で計測を行います。2次元だけで合わせるのではなく、流入波形が僧帽弁レベルから心尖部方向へしっかりと観察できるようにすると、3次元であわせられていますので、常に3次元でとらえられているかどうかを意識しましょう。
左室の流入血流の連続波ドプラーで、最高速度とプレッシャーハーフタイム、速度の平均を測定します。
プレッシャーハーフタイムからは、経験的に知られている式から狭窄している弁口面積を概算できますし、また、速度の平均からベルヌーイの式を使って、平均圧較差を求めることができます。
さらに、左室の短軸像で、できるだけ頭側から見下ろしていって、僧帽弁を正面視できる断面から拡張時の僧帽弁の最大弁口面積をトレースして測定します。もっとも重要なことは、正面視できていることと、弁の先の面積を測かれているかどうかです。弁腹・弁基部方向によると開口面積は、誤って大きな値となってしまいます。
ただ、現在は、3Dエコーが、ある程度の施設では導入されていると思いますので、弁口のきっちりとした評価が必要そうなものは、3Dで計測すると、きっちりと弁尖での面積を計測できます。
治療が必要な僧帽弁狭窄の可能性があった場合には、心尖部の像などを駆使して、カテーテルによるバルーン治療の適応となるような弁かどうかをみていきます。
基本的にはWilkinsのエコースコア―(弁の可動性、弁下部組織、弁の肥厚、石灰化)によって、カテーテル治療が可能かどうかを判定しますが、ほかにも、弁輪部や弁の開口の左右の対称性、弁尖の傷み具合など、バルーンで開くと広がりそうな狭窄かどうかも評価します。
(私はWilkinsのスコアリングには自信がありません。本当のエコーの専門医同士ならある程度一致すると思います)
カテーテル治療や手術が必要かどうかは、自覚症状や心不全の所見が、僧帽弁狭窄の程度によって説明しうるかどうかで決定します。
ガイドラインでは、薬物療法を行ってもという注釈がありますが、利尿薬程度で心不全を起こさない中等度狭窄であれば、様子をみてもいいと思いますが、ある程度の量の利尿薬が必要であったり、高度の狭窄症は、年齢やADLを考慮した全身状態が悪くなければ早期に手術でいいと思います。(ただし、生体弁の場合には、弁の寿命も考慮に入れる必要はあります)
特に高齢にさしかっている患者に対しては、弁膜症性心不全は、基本的には進行する疾患であると考えて、手術に対する耐術能との相談で、薬物である程度コントロールされていても、手術に踏み切る必要もあろうかと思います。
今後、外国の人が増えると、僧帽弁狭窄症も増えるかもしれません。