健康リブ ー健康に生きるために病気を知るー

セミリタイアした医者のブログ。元気に長生きするためにしっておいてほしいこと。平日は毎日更新していこうと思っています。

心不全のすべて (49-4:BNP, 無症状時のBNP測定後の対応はどうすればいいか)

 

BNPは、心臓、主に心室に負担がかかった時に、心室の心筋細胞が伸展されることを刺激として、生成、分泌されます。

そのため、心室に負荷がかからない僧帽弁狭窄症などではあまり上がりません。
 
BNPの生成は、proBNPという紐のついた輪っかのような前駆体がまず作られ、それがふたつにカットされて、輪っかのほうが生理活性をもったBNPに、ただの紐状の部分は生理活性のないNT-proBNPとなります。
 
ちなみに、一部proBNPも血中にあるため、BNPとproBNPは共通部位をもち、NT-proBNPもproBNPと共通部分を持つので(proBNP=BNP+NT-proBNPですので)、それぞれの血中濃度は多少のproBNPを含みます。
 
 
BNPは、腎臓、副腎、血管平滑筋、心臓などに作用して、心不全の時にみられる過剰な塩と水の体内への貯留や血管の収縮を軽減し、また、それらの硬化によって、心臓の負荷軽減という結果をもたらし、心不全の急性増悪の予防などに寄与します。
 
 
 
さて、BNPは、日本循環器学会および心不全学会が出している心不全のガイドラインでも別格と書かれているように、非常に重要なバイオマーカーであり、さまざまな状況で測定されており、健康診断で、BNPを測定することも多くなっていると思います。
では、健康診断でBNPを測定したときにどうすればいいのかを、循環器内科の臨床をしていた側から考えたいと思います。
 
健康診断ですので、何も症状がないということ、心電図と胸部レントゲン、腎機能を含む基本的な血液検査をしていることを前提にしています。
 
###ただし、特に高齢者には、隠れ心不全が一定数いると考えられます。
日常生活で症状がないといっても、平地歩行は結構自分のペースで歩けば心不全があっても、息切れなく過ごすこともできます。つまり、自然と行動制限をしていることがあります。そのため、かならず階段や坂道を息切れせずに登れるかどうかは聞いてください。年齢にもよりますが、70歳で2階まで登るのに息切れするのであれば、労作時の呼吸不全の可能性は十分にあります。###
 
 
まず、はっきりと高い時と低い時にはあまり困らないと思います。
 
 
(BNP < 20pg/ml および BNP > 100pg/ml の時)
BNP < 20pg/mlははっきりと低いといえます。また、BNP >100 pg/mlでははっきりと高いといえます。
 
BNP < 20pg/mlでは、特に異常はないと判断します。
(ただし、左室駆出率20%程度でもBNP<20pg/mlの人はいくらでもいますので、あくまで健康診断での値に対する判断です。BNP < 20pg/mlだから心疾患が絶対にないわけではありません)
 
BNP > 100pg/mlであれば、循環器内科に紹介していただいて、レントゲンの評価や、心エコーなどの検査して、心臓に何らかの異常がないかを調べる必要はあると思います。
ガイドラインでも、同じことを言っています。
 
 
 (BNP 20-40pg/mlの時)
ここからは、意見の分かれるところであると思いますが、私の個人的な意見では、BNP >= 20pg/mlは少なくとも正常ではないと思います。
 
腎機能や年齢、血管の硬さ(後負荷)などは影響していますが、少なくとも正常ではないと考えています。
ただ、特に20-40pg/ml程度であれば、心エコー、さらにMRIまでしても、それでわかる異常があるかといわれれば、わからない可能性が高いと思います。
 
さて、具体帯にどうすればいいかを考えるのに、BNP 20-40pg/mlの場合には、年齢によってわける必要があると思います。
 
若年者では、BNP > 20pg/mlとなることはほぼありません。そのため、若年者であれば、かならず心エコーを一度することをお勧めします。
何らかの見逃されている先天性疾患などがあるかもしれません。また、若年者は、収縮機能が悪くても、拡張機能が保たれていていれば、驚くくらい症状がなく、運動耐容能が高い人がいますので、そういう人を診断できるかもしれません(ただ、こういう人は、概してBNPが正常なことも多いですが。。。)。
 
循環器内科へは、
「無症状ながら、若年者であり、BNP 20pg/ml以上で、何らかの異常がある可能性を考え、一度構造的な異常などがないかを精査いただきたく紹介させていただきました」
と書いていただければ、循環器内科側も「確かにな」となると思います。
 
ここでの若年者の定義ですが、40歳以下なら、間違いなく若年者だと思います。60歳以上なら、違うかなと思います。
40歳から60歳の場合には、本人の元気さや印象にもよると思います。基本的には、50歳前後でBNP 20pg/ml以上は、病気があってもおかしくないし、なくても不思議ではないという程度になると思いますので、ご本人と相談の上、紹介ということになるでしょうか。
 
 
ただ、紹介のハードルが高い場合には、あくまで症状が本当にないということが大前提ですが、完全に正常ではないと思いつつも、BNP 20-40pg/mlは、レントゲンと心電図で異常がなければ、そのまま経過を見る方向でもいいと思います。
ただし、心不全を疑う症状が出てきたり、特にレントゲンで心拡大があれば、かならず心エコーが必要だと思います。
 
循環器内科への紹介する時には、
「無症状で、BNP 20-40pg/mlと正常高値程度ながら、レントゲンで心拡大あり(労作時の息切れがあり)ます。なんらかの構造異常や心房拡大などないか精査ください」
と書いていただければ、心エコーと、それによる拡張機能の程度を評価、必要があれば、さらなる精査を行うと思います。
 
 
また、この段階では特に高血圧のきっちりとした除外が最も重要だと思います。診察室血圧が正常でも、自宅血圧測定の指導か、24時間連続血圧測定による高血圧の除外は必要だと思います。
 
また、運動も積極的に奨励していきたいところです。
運動の内容は、下肢の軽い筋力トレーニングとウォーキング(30分×2回)を積極的に推奨したいところです。
 
不全心となりかけている手前、際にある心臓にとって血圧を至適に保つこと、全身運動を行うということは非常に重要だと思います。
 
 
 
(BNP 40-80pg/mlの時)
 
次に、40pg/ml以上の時には、心エコーのハードルが低ければ、心エコーを一度することをお勧めします。もちろん、レントゲンで心拡大があれば、かならず心エコーをしてください。
 
高齢者で、活動性が低ければ、そのまま更なる検査をせずに緩やかな管理を続けるということも十分に合理的だと思います。
(健診を受ける方の中にこういう方は少ないと思いますが)
 
心エコーで拡張障害が疑われたときには、いずれ心不全が症候性となる可能性があるために、心不全の症状を周知することが重要だと思います。
 
初回の心不全で来院される方は、心不全の症状を知らない、自分が心不全だと気付かずに、かなり症状が悪くなった状態で受診することが多いです。
そのため、心不全の症状を周知し、早期に受診することを説明するのは重要です。心不全は、軽い症状の段階で受診すれば、外来で利尿薬と少しのACE阻害薬で治療が可能なことが多いです。
 
病院の勤務医が多忙であることは十分理解しています。
BNP高値での紹介の場合には、いくつかの検査のオーダーと、結果説明だけですので、まだそれほど負担にはならないかと思います。
 
また、上記と同様に血圧の診断と、運動は重要です。
ただし、BNP 40pg/mlを超える人に関しては、心機能の評価をしてから運動を勧めるほうがいいと思います。
 
 
(BNP >80pg/ml)
BNPが80pg/mlを超えているときには、もう100pg/ml以上と同じように考えていいと思います。
BNP 60pg/ml前後と80pg/ml前後では少し印象が違います。
80pg/mlでは何もないことはないだろうと思います。
循環器内科で、一度心エコーを含めた評価のために紹介するという方針でいいだろうと思います。
 
最期に、BNPをフォローしていく中で、どれくらい上昇すれば、有意な上昇と判断していいのかということですが、100%以上(2倍)の上昇は有意だと思います(±50%%程度の変化は状況があまり変わらなくてもあり得ます)。
ほんとにざっくりついうと倍以上になっていれば、有意な増加と考え、50%程度の増加であれば、心不全の状態としては変わっていないときもあるし、少し胸水があったり、むくみが悪くなっている程度の悪化をしている可能性はあります。
10-20%程度の変動は、まったく普通のことですので、気にすることはないと思われます。
 
 
###
日本循環器学会と心不全学会が出している「急性・慢性心不全診療ガイドライン」のBNPのコメントを抜粋します。
●正常値は一般に普及している18.4pg/mlを用いました。この値より低い場合には、潜在的な心不全の可能性は極めて低いと判断されます。
●血中BNP値が18.4-40pg/mlの場合は、心不全の危険因子を有している症例でも、直ちに治療が必要となる心不全の可能性は低いと判断されます。ただし、BNPだけでは心不全の程度を過小評価してしまう場合(収縮性心膜炎、僧帽弁狭窄症、発作的に生じる不整脈、一部の虚血性心疾患、高度肥満などを伴う心不全)もあるので、症状や症候を十分に加味して判断して下さい。​
●40-100pg/mlの場合には、軽度の心不全の可能性があります。危険要因が多い症例や心不全を発症する基礎疾患を持っている症例では、胸部X線、心電図、心エコー図検査の実施をお勧めします。ただ、この範囲では、重症心不全である可能性は低く、BNP上昇の原因がある程度特定できれば、そのまま経過観察することも可能でしょう。​
●100-200pg/mlの場合は、治療対象となる心不全である可能性があります。心エコー図検査を含む検査を早期に実施し、原因検索をお願いします。もし、心不全を疑う所見が得られ、対応が難しいようであれば専門医にご紹介下さい。​
●200pg/ml以上の場合は、治療対象となる心不全である可能性が高いと思われます。原因検索に引き続き、症状を伴う場合は心不全治療を開始して下さい。更なる診療が必要な場合には専門医での対応を考慮して下さい。