心不全を中心とした循環器疾患に関する単なるブログ

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心不全のすべて (49-1:BNP, BNPとは)

最近発表された2017年改訂版 急性・慢性心不全診療ガイドライン(日本循環器学会 /日本心不全学会合同)にも、BNP(及びNT-proBNP)は、心不全の診療において別格であると記載されているように、診断から治療経過、予後予測などのあらゆるステージにおいて有用であるり、心不全診療においてBNPは非常に重要な検査項目です。

 
BNPは、心臓の特に心室から分泌されるホルモンです。
BNPは、brain natriuretic peptideの略です。日本語では、脳性ナトリウム利尿ペプチドといいます。心臓から分泌されるのに脳性とは非常にややこしいですが、一番初めに見つかったのが、ブタの脳ということで、脳性となっています。
NPというのは、natriuretic peptideのことで、腎臓に作用してナトリウム利尿を起こすペプチドホルモンということです。このNPには、ANP,BNP,CNPとあります。
ANPは、atrial natriuretic peptideの略で、日本語では心房性ナトリウム利尿ペプチドです。心房から分泌されます。特に心耳といわれる心房の耳の形っぽい袋状になっている、後で付けされたような部分があるのですが、そこから分泌されます。一見後付けされているようにみえますが、進化的には、まず心耳ができてから、後で心房が発達していますので、心耳のほうがお兄さんです。
海の中で生活していたころには、塩分を大量に排泄する必要があったので、NPが必要だったのだと考えられています。
ちなみに、生物が陸に上がって、水と塩の保持が重要になると、水を保持するためにバソプレシンが、塩を保持するためにアンギオテンシン・アルドステロン系が進化したと考えられています。
 
さて、BNP,ANPが発見されたため、次に発見されたものは、A→Bということで、CNP(C-type netriuretic peptide)と名付けられました。また、遡って、脳(Brain)ではなく、人間では心室から分泌されていることから、BNPをB-typeというようになっています。
さらに、DNP(Dendroaspis natriuretic peptide)というのもあります。DNPは血管拡張作用などが確認されており、今後心不全の治療薬になるかもしれないと頑張って研究されているグループがあるようです。
 
 
BNPは、心臓に何らかの負荷がかかると、心筋が伸展しますので、この伸展という心筋細胞にかかる物理的な刺激によって分泌が起こります。
この伸展刺激は、体液量の増加であれ、血圧の急な上昇であれ、基本的には心室に何らかの負荷がかかるすべての状態で変化すると考えられます。
また、実験レベルでは、カルシウムの負荷やアンギオテンシンやサイトカインなどによってもBNPの遺伝子量が変化することが確認されているので、伸展刺激のみでもないと考えられています。
臨床的には心臓にかかる負荷がふえれば、さまざまなサイトカインが変化するため、さまざまな刺激に対しても反応すること自体合理的であると考えられます。
 
 
ANPは心房細胞内に顆粒として存在し、刺激とともに、蓄えれれていた顆粒から分泌され、BNPは刺激に対して刺激の都度、刺激の度合いに応じて分泌量が変化するといわれています。
ANPとBNPは、受容体に対する結合の強さは違うものの、ほぼ同じ作用を示すとされていますが、ANP+BNPとCNPは利尿などに関する受容体が異なります。ただ、その下流にある酵素は同じで、同じような作用をします。
 
また、心房の伸展は、体液量の変化の影響を受けます。
心室は、体液量が増えても、あまり左室の容積が増えることはありません。
左室の大きさの決定因子に体液量は関係ありません。
(左室の大きさは収縮性、後負荷、必要な1回拍出量できまります)
しかし、心房に関しては、容積が体液量の影響をうけますので、ANPのほうが、体液量の変化を鋭敏に反映するとされています。
現在、心不全に診断にANPが用いられることはありませんが、透析の患者さんの透析後の体液量の適正性を判断するのに、ANPが使用されているようです。
 
 
いろいろな物質の血中濃度は、大きくは産生と排泄によってきまります。
心不全が同程度であれば、理論上BNPの産生は同じ程度だと考えられますが、何らかの理由で排泄に異常があれば、血中濃度は変わってきます。
 
BNPの排泄は、正確には代謝と排泄は、クリアランス受容体によって細胞内に取り込まれ分解されるのと、中性エンドペプチダーゼ(neutralendopeptidase; NEP)という酵素によって分解されることによります。
この排泄機能は、腎機能低下により低下することが分かっています。
 
また、特殊な例では、肥満はBNPを低くするようで、肥満の心不全患者ではBNPが想定よりも低いことはよく経験します。
 
 
 
少し前から、NT-proBNPというものも測定できるようになっています。こちらのほうが、BNPに比べて測定しやすいという特徴があります。
(特に病院内で測定できない診療所などでは、NT-proBNPのほうが測定しやすい)
 
NT-proBNPは、BNPができる過程ででる、白米とおからのような関係です。
BNPは、さまざまな生理的な活性をもっていますが、NT-proBNPはおからと違って、体に対しては何の作用もありません。
BNPが1できるときに、NT-proBNPも1できるので、これも心臓の負荷に応じて変化する有用なバイオマーカーです。
産生される量は、BNPと同じなのですが、代謝・排泄が違っていて、BNPよりも長く血中にとどまるため、常にBNPよりも高い値となります。
特に、BNPよりも、腎機能の影響を強く受けるため、腎不全の方ではBNPが心臓の負荷以上に高い値をとるのに、さらにそれ以上にNT-proBNPは高い値となってしまいます。
 
BNPの代謝にかかわるNEPを阻害させる薬があります。そのため、NEP阻害薬を服用せいている人は、その薬のためにBNPが高くなってしまい、心臓の負担の状況を反映しなくなってしまいますが、NT-proBNPはその影響を受けないため、NEP阻害薬を服用している人に関しては、NT-proBNPを測定しなければなりません。このNEP阻害薬は、海外では現時点ではそれなりに高額ですので、日本に導入された後でもすぐに広がるというわけではないように思いますので、しらばくは、実績の多いBNPでも問題ないと思われます。