心不全を中心とした循環器疾患に関する単なるブログ

心不全について私が知る・思うすべてのこと

心不全のすべて(47-2:胸部レントゲン、肺うっ血・肺水腫の撮影の注意)

(2019/2/28 最終更新) 


胸部レントゲンでは、肺うっ血と肺水腫、胸水を評価することになります。


 
安定している状態でとるレントゲンと、不安定な非代償状態でとるレントゲンで評価できる、しなければならない項目はかわります。


また、不安定な状態でとる場合にも2通りの状況があります。
安静でも呼吸困難がでているような非常に不安定な状態と、少なくとも安静で、じっとしている範囲では症状がでない状態のさらに2つに分けられます。


 レントゲンの評価の前に知っておいていただきたい重要なことがあります。
安静でも呼吸困難が出ているときには、肺水腫を起こしている可能性が高いです。
聴診をしなくても、ぜいぜいといっているのが聴こえることも多々あります。


このような非常に不安定な肺水腫を疑っているような状態の患者さんは、救急外来かそれに近い場所で診療が行われると思います。

この際にレントゲンに関して、診断の前に撮影に関して知っておいていただきたいことがあります。

「安静時でも呼吸困難のある患者を、絶対に臥位にしてはいけない」ということです。

 

最近は、救急隊もわかってくれていて、心不全が疑われる患者さんは、ストレッチャー(移動する細いベット)で座らしたまま病院まで搬送してくれます。
これは、心不全による呼吸困難が疑われる時に、臥位にすると、せっかく座らせていることで腹部より下に重力を利用して分布させていた細胞外液(細胞内以外の間質液や血液などの体液の総称)の幾分かが、心臓へ戻ることで肺うっ血・肺水腫が重症化することがあります。そのために、座位をキープすることが受容です。
そのために、このような時には、レントゲンを撮影するときには、ポータブルレントゲンかレントゲン室で座位で撮影することになります。

(陽圧換気療法については、また、後述します)


ここで、よく循環器を専門にしていない先生が救急対応をしているところでは、「呼吸困難=胸部CT」としていたり、レントゲンで肺水腫などがあった場合に、肺水腫があるとそれ以外の肺の病気の診断ができないため、肺炎などの合併を疑ったり、除外したりするためにCT撮影を行う方がいますが、絶対に行ってはいけません。
CTを撮影するのはある程度の時間(少なくとも3分以上)臥位になります。しかも、CTでは、自動音声で息を止めるように指示が出ます。

肺水腫の方で、このようなことをしてしまうと一気に呼吸状態が悪化して、せっかく普通のマスクでの酸素投与で済んでいたのに、特殊な陽圧換気という機械を使用しなくてはならなくなったり、体液の分布が変わって心臓に負荷が増したり、呼吸困難が悪化して精神的にパニック状態になったり、呼吸困難とパニックが合わさって呼吸と心拍数が上昇することなどにより、低潅流所見や心筋虚血が悪化して、一気に状態が悪くなる可能性があります。

 


それでは、肺うっ血についてですが、肺うっ血は、左房圧の上昇により肺循環に血流うっ滞が生じている状態です。そのため、圧の上昇が生じて、肺血管が拡張します。
レントゲンで、肺門部や肺血管が拡張してみえます。
また、普段は重力の影響で、上肺野の血管陰影は薄く、下肺野は濃くみえますが、肺うっ血では上肺野でも血管陰影が濃くしっかりとみえるようになります。


しかし、なかなか肺うっ血の診断は微妙なことが多いです。
何回もレントゲンを撮っている人であれば、比較できますので、まだ、以前よりうっ血が強いなどといえますが、初回の人は結構微妙です。
また、レントゲンを診断する際のディスプレイによっても結構みえかたが変わってきます。30万以上するような放射線科診断用のディスプレイで見るか、1万円のディスプレイで見るかによって、肺血管や肺野の見え方は変わります。
肺うっ血があると誰かが言っても、ほかにみている人はないようにみえるけどなぁというくらいのレントゲンは少なくはないように思います。


(余談:ずっと昔ですが症例検討会で、胸部レントゲンのスライドを出したのですが、画像の取り込みの仕方が悪くて、どうみても肺うっ血があるとしか見えないレントゲンになってしまい、肺うっ血はなかったのですが、会場の人にレントゲンでうっ血がないことを信じてもらえませんでした。)

 


私は、循環器医で、循環器疾患を絶対に見逃してはならない立場(#注)でしたので、多少でも肺うっ血がありそうと思ったら、全部ひとまずは肺うっ血ありとしていました。
その後、他の検査も含めて、肺うっ血なのかどうかを評価しなおすというような対応です。


#注:循環器医が腹部CTで腹痛の原因がないといっても、他科の先生はいい意味でどこか疑ってくれますが、循環器医がレントゲンで心不全なしとか、心電図で心筋梗塞ではないと言い切ってしまうと、それが最終的な判断になるので、専門領域であればあるほど、疑わしきはひとまずは否定せずの方針で、否定するに必要な検査を追加しています。
さまざまなことを総合的に判断をし、最終診断し、その判断に責任をもちます。