心不全を中心とした循環器疾患に関する単なるブログ

心不全について私が知る・思うすべてのこと

心不全のすべて (22:胸水と肺うっ血)

肺うっ血と胸水は、胸に水がたまるという意味では共通していますが、肺うっ血および肺水腫は左心不全症状で、胸水は右心不全症状です。
 
左心不全症状は、左室拡張末期圧および左房圧の上昇による症状で、右心不全症状は、右室拡張末期圧および右房圧の上昇による症状です。
 
肺うっ血は、左房圧の上昇により肺循環がうっ血している状態で、また、肺循環の静水圧の上昇により起こる肺水腫もまた左心不全症状です。
肺には、肺循環とは別に、肺自体を栄養している気管支動脈があります。気管支動脈自体は、大動脈から分岐して、肺動脈と違って酸素が十分にあるいわゆる動脈血です。(肺動脈は肺胞の前にあるので、酸素濃度は低い血液です)
 
気管支動脈は、肺全体を栄養します。気管支の太い中枢に近い部分と胸膜などを流れる気管支動脈は気管支静脈となって、右心房に直接流れ込みます。
胸膜は、肺という臓器を直接覆っている臓側胸膜と、胸郭側についている壁側胸膜という2重膜になっています。2重膜の間は、水のやり取りが行われていて、もともと、肺間質、臓側胸膜から胸腔内を経て壁側胸膜をさらに通ってリンパ管から回収されるという水の流れがあります。
この水の流れが、右房圧上昇による気管支静脈のうっ血により増加し、リンパ管による回収が追いつかなくなり、二つの膜の間の胸腔に生理的な(≒正常)量を超えて水が溜まってってしまいます。この水のことを胸水といいます。
 
もちろん、これは心不全による胸水の機序で、例えば肺炎でも胸水は出ますが、機序は違います。
肺炎の時には水の流れが増える機序は、胸膜の水を通す通しやすさ(透過性)が、肺炎の炎症により高まることで、それにより胸腔へ流れる水の量が増えることで胸水が増えます。そのため、特に胸水に対して何か治療をしなくても、肺炎が治っていくにしたがって、自然に胸膜の透過性が正常化していくに伴い胸水は減少していきます。
 
気管支動脈は肺胞に近い末梢の気管支や肺胞周囲の間質なども栄養します。肺の先のほうまで流れていきます。
肺の末梢のほうまで行ってしまうと気管支静脈には戻れず、肺静脈に流れ込んで回収されます。
つまり、気管支動脈は分岐した後に、潅流する部位の違いで、右房と左房の両方に流れ込む特異な循環をしていることになります。
気管支動脈の末梢を循環している部位に関しては、肺静脈から左房へ流れ込むため、左房圧が上がると、気管支動脈から流れてきた肺の末梢や肺胞間質がうっ血し、さらに、溢水するため、肺水腫となりますし、気管支の細い部分も肺静脈から左房へと流れる循環になっているため、末梢の気管支の浮腫も左房圧の上昇で見られます。
心不全の症状として、喘息のような気管支の狭窄音が聴かれ、これを心臓喘息ということがありますが、これは左房圧上昇による左心不全症状というわけです。
 
ちなみにいわゆる右心不全症状を中心とした慢性心不全の急性増悪などの時に、一番最後まで余分なスペースに水がたまのが、胸腔です。つまり、胸水がなくなれば、多くの場合慢性心不全の増悪は、いったん小康状態となり、水分のバランスが取れている状態、代償状態といわれる状態となることが多いです。