心不全を中心とした循環器疾患に関する単なるブログ

心不全について私が知る・思うすべてのこと

心不全のすべて(21:左心不全症状と右心不全症状は、機能不全とは必ずしも一致しない)

 心不全のうっ血及び溢水による症状は、左心の拡張末期圧と右心の拡張末期圧の上昇によるものに分けられます。

 それぞれのうっ血、溢水の症状を左心不全症状、右心不全症状と言うことがあります。

 ちなみに心拍出量の低下は、左室・右室のどちらに起因するものであっても、結局両心室からの拍出量は同じになりますので、どちらということはなく、低灌流所見といいます。

  

実は、左心不全症状と右心不全症状は、そのまま左心機能不全症状、右心機能不全症状とは一致しません。

  

 

まず、左心不全症状から見ていきます。

 繰り返しますが、左心不全症状は左室拡張末期圧の上昇に伴う所見です。 

肺うっ血や肺水腫が主な左心不全症状です。

 

左心不全症状には、右心機能が重要な要素になってきます。

左室の拡張末期圧がある程度あがるために、右心機能や肺高血圧の程度が非常に重要なのです。

 つまり、右心機能がある程度よくて、肺循環の血管抵抗がある程度低くて、肺循環からある程度はどんどんと左房へ血液が送り込まれることが重要です。

 右心に余力があって、体が求める循環血液量を出す必要がある時に、少なくとも右室はある程度右房圧を上げさえすれば、その心拍出量を出せるという状態です。

 

右心は必要な心拍出量を出すことができるため、左室に血液を送り込みます。そうすると、左室の拡張末期容積が増加し、圧上昇が起こって、左心不全症状が起こります。右心が拍出量を出せなければ、左室拡張末期圧を上げることができず、左心不全症状は起きません。

 

左心機能が低下している心不全なのに、左心不全症状が起こらないというのは、右心機能不全や肺高血圧の時に見られます。つまり、右心の機能が不全となっているため、体が要求する心拍出量が増加しても、右心機能が悪く、右心から拍出される血流量が増えず、このために、左室の拡張末期容積が増加しないという現象です。

 

ただ、このような状態はそれなりに特殊な心不全といえますので、おおかたの心不全ではこのような特殊な現象は見られませんが、特殊な重症の心不全ほど、レントゲンで肺うっ血や肺水腫所見がみられないということは覚えておいてもいいかもしれません。

  

 

次に、右心不全症状ですが、主な症状は臓器のうっ血や四肢の浮腫です。

基本的に右心不全症状が見られない心不全は、まれで、急性というよりも急激に発祥した電撃性肺水腫という状態以外にはないかもしれません。

 

 電撃性肺水腫は、ごく簡単に言うと、突然何らかの理由で、体の血液をプールしている静脈(主に脾臓や肝臓)や、動脈の抵抗血管が収縮を起こして、心臓に帰る血液が増えて、抵抗血管が収縮することで心臓の駆出に対する負荷(後負荷)が突然増えるというダブルパンチで激烈に左心に大きな負荷がかかる病態です。こうなると、急激に左室拡張末期圧が上昇して、肺水腫をおこしてしまいます。

 

電撃性肺水腫がおこる前に、心不全の前段階(症状がない範囲で体の水が2kg程度増える)がある状態の方が多いですが、前段階がない状態でも、起こりえます。このようなに前段階がない状態のときには、ほぼ肺水腫とそれに伴う症状が中心で右心不全症状が余りでないことがあります。 

 

 右心不全症状というのは、あくまで右室の拡張末期圧の上昇による体循環のうっ血・溢水症状のことで、右心機能不全が、そんなに悪くなくてもおこります。

 

 左心だけが限定的に悪くなることはあまりないと思いますが、左心が限定的に悪くなったとしても、右心不全症状は出現します。

 右心は、圧負荷に弱いとされます。そのために、左心の拡張末期圧があがると、左房圧があがり、平均の肺動脈圧があがります。

 すると、特に左房圧は、右室にとっては駆出に対する負荷(後負荷)となるため、右室が収縮性を上げてそれに対抗しようとしますが、左室に比べてその対応力は弱いため、後負荷に対して、収縮力を上げきれずに、左室に比べて容易に右室拡張末期圧は上昇してしまいます。

 

そのため、右室機能自体に大した問題がなくても、左心不全症状が出ずに、右室拡張末期圧上昇による右心不全である四肢の浮腫や胸水がみられるということになります。