心不全を中心とした循環器疾患に関する単なるブログ

心不全について私が知る・思うすべてのこと

心不全のすべて(18:左室拡張末期圧の上昇は、急性には肺水腫を起こし、慢性的には肺高血圧、酸素拡散能の低下を起こす)

心不全の症状は、低灌流による症状とうっ血による症状に分けられます。

低灌流による症状はある程度重症度の高い心不全にみられるのに対して、うっ血の症状はすべての心不全にみられます。

有症候性心不全というのは、うっ血の症状があることが前提です。重症ながら、安定している心不全であれば、うっ血の症状はなく、低灌流所見だけということもありえます。しかし、そのような場合でも、少しのバランスの乱れで容易にうっ血による症状が出ますし、そもそも、低灌流になるほど心拍出量を低く保たないとうっ血が出てしまう状態ですので、潜在的にうっ血症状があるといえます。

 

 

左室拡張末期圧の上昇は肺循環をうっ血させて、肺うっ血おぼび肺水腫を起します。また、慢性的な肺循環に対するうっ血や圧の上昇は、肺の血管自体の構造を変化させて、肺高血圧という状況を引き起こします。また、肺胞自体にも変化を起こさせて、肺と毛細血管の酸素拡散を低下させるような肺胞の間質の肥厚などを引き起こします。

つまり、左室拡張末期圧の上昇は、肺うっ血を起こし、急性に変化すると肺水腫を引き起こして、それが慢性的に繰り返されると肺高血圧や肺毛細血管の酸素拡散能の低下を引き起こします。

 

また、肺水腫は病態によって、2つに分けられると考えられます。

肺水腫を急性に起こすときに、ただ圧が上がって一時的に水が漏れだすだけの肺水腫と、強い炎症を伴ってサイトカインの上昇を伴う肺水腫があると考えられています。

現在、肺水腫になるとある種のサイトカインが上昇することまでは確かめられていますが、すべてでそうかどうかはわかりません。

直接患者さんを治療していると、肺水腫を起こしても、陽圧換気という特殊な呼吸器と少しの血管拡張薬と利尿薬で、ほんの数時間でレントゲンがあっという間にきれいになり症状が取れる人と、同じような治療をしていも、症状はそれなりに良くなるし、血行動態的には肺うっ血は改善しているが、肺水腫像が2-3日持続して、酸素化の改善がいまいち人がいます。おそらく、これらの違いはサイトカインなのかもしれません。サイトカインが上昇すると、肺の間質への水の移動が、低い圧でもしやすくなるので、血行動態を良くしても、この透過性の亢進が是正されるのをしばらく待たなくてはならないのかもしれません。また、サイトカインは間質の線維化を起こしますので、こういった患者さんでは、慢性期に肺の酸素拡散能が低下して、呼吸機能検査のDLCOという値の低下が起こるのかもしれません。

 

 

繰り返しますが、左室の拡張機能(心内・心外の影響すべてを含んだ拡張機能)が良ければ、心臓がより血液を出そうとすると、左室拡張末期容積は増えます。心臓が血液を増やすときに増やしたいのは圧ではなく、容積です。

しかし、左室の容積が増えれば増えるだけ、内圧は上昇します。この時に、拡張機能が良ければ、いくら大きくなっても拡張末期圧は上がらないため、左房圧もあがらず、肺うっ血もおこりませんので、心不全の症状は出ないことになります。

何らかの理由で拡張機能が悪くなるか、心臓が大きくなりすぎて、心膜の影響などを強く受けるようになれば、少しのきっかけで心不全症状が出現します。

この心不全症状が出だすと、明らかな原因がなければないほど、また、心臓がさほど大きくない状態であれば、それだけ拡張機能が悪いということになりますので、急性の症状は取れるとしても、心不全が起きやすい基礎(拡張機能)を治療することはできないわけですから、何らかのきっかけで心不全はすぐに急性増悪を起こしますし、拡張機能は基本的に経年的に悪化しますので、より心不全の急性増悪を起こしやすくなります。

 

現在、心臓の拡張機能を改善させる薬はありません。そのため、心不全は不治の病となっています。

内服での治療は、うっ血をさせないように必要な量の利尿薬を投与することと、少しでも収縮機能を上げることで、小さく効率的に動いて、低下した拡張機能に余力を持たせるために、経口強心薬を投与する程度の、対症療法的な治療しかありません。