健康リブ ー健康に生きるために病気を知るー

セミリタイアした医者のブログ。元気に長生きするためにしっておいてほしいこと。平日は毎日更新していこうと思っています。

心不全のすべて(17:肺うっ血と肺水腫は左室拡張末期圧の上昇が原因)

心不全では、静脈系の血流のうっ滞によっていろいろな症状が出ます。

 

心不全による症状は、基本的に心臓の拡張機能不全が原因です。拡張機能不全とは、拡張末期の左室が最大容積の時の心臓の内圧が過剰に上昇している状態と定義されると考えています。

ここで、難しいのは、安静時に何mmHg以上とか、どの程度の負荷がかかったときに容積の増加量当たり何mmHg以上上がったらとかいう明確な定義ができない点です。

例えば、安静時の拡張末期の圧がXmmHg以下であれば、正常と決めたとしても、運動とか、何らかの負荷でどれだけ上がるか、その上がったときの値がどれだけかが重要なので、安静時にある程度高ければ心不全だろうとは思いますが、なかなか具体的な値は決めれないというのが実情です。

ただ、おおざっぱな値はあります。左室であれば、左室の拡張末期の心内圧(=左室拡張末期圧)で、18mmhg以上とか、22mmHg以上とかという値がそうです。安静時に左室拡張末期圧が20mmHgというのは正常の心臓ではない値だと思いますので、この辺りは一つの基準にはなると思います。ただ、心不全で安定している時であれば、左室拡張末期圧が7mmHgとか10mmHg程度の正常の中でも低めの値をとることがありますので、低いから大丈夫とは言えません。

右室の場合は、おおよそ2,4mmHgとかいう値ですが、4mmhgは少し高いかなと思いますので、正常と言い切るには、平均で2mmHg程度までがいいのではないかと思います。

 

また、左室拡張末期圧が高いからといってすぐに症状が出るわけでもありません。ゆっくりと心不全が進行する場合には、各臓器が圧の上昇に対して適応できるからです。

特に肺では、左室拡張末期圧が、急に正常の10mmHgから、25mmHg程度にあがると、肺うっ血・肺水腫という状況になると思いますが、緩徐に進んでいる場合は、肺の肺胞と毛細血管の間の水のやり取りをするような機構や、リンパなどが適応して、25mmHg程度でも肺うっ血は慢性的に起こっていても、それによる症状はあまりなかったり、肺水腫は全く起こっていなかったりします。

 

肺うっ血、肺水腫と書きましたが、肺うっ血は、右心室から出た血液が肺動脈、肺胞の毛細血管、肺静脈、左心房という肺循環を還流している循環に圧上昇によるうっ滞が起こっている状態です。左室拡張末期の圧は、僧帽弁に異常がなければ、平均の左房圧とほぼ同じです。左室拡張末期圧の上昇が、左房圧を上げて、肺循環をうっ血させます。

そして、心不全の中でも、特に急性心不全でみられて治療優先順位が同率1番の病態が肺水腫です。

肺胞は、気管支がどんどん細くなっていって、最終的に行きつく球状の薄い膜です。背嚢の中には、空気がはいっていて、肺胞の外側には毛細血管が走っています。薄い皮を通して、毛細血管の中に、酸素を押し込み、二酸化炭素を吸収するようになっています。

この膜は水を通さないのですし、肺胞の外には間質という、正常であれば、ほとんど何もない、毛細血管と線維性成分しかない空間がある程度ですので、基本的にはドライな状態です。

一般的な毛細血管は意図的に組織に水を出すような機構になっていますが、肺はこの機構を低下させて、水自体のやり取りは肺胞ではあまり起きません。リンパ管はありますので、まったくないわけではもちろんありません。

そのような状態で、左房の圧があがると、肺の毛細血管の圧もあがります。すると毛細血管内の圧は、毛細血管から組織に水を送る重要な駆動力ですから、組織に流れる水が増えます。

これに対して、リンパ機能をフル回転させて、漏れてきた水をすべて回収したり、水を透過させるチャンネルをコントロールして、空気のある肺胞の内側には水が行かないようにします。

この過程で、肺の間質に水が増えている状態が、肺間質浮腫ですが、このような厳密な言葉は誰も使いません。一般的には、この肺間質浮腫を肺うっ血といっているような気がします。肺うっ血に続く状態なので間違ってはいませんが。

さらに、間質の水が、肺胞の薄膜を超えて肺胞の中(肺は、この肺胞の中の空気のある部分を実質といいます)の肺実質に水が流れ込む状態を肺水腫といいます。

肺水腫が起こると、安静時でもかなり強い呼吸困難と低酸素血症が生じます。

肺水腫はほかの疾患でも起こりますが、心不全の肺うっ血による肺水腫の場合は、寝ていると症状が強く出て、座ったり、前かがみになると症状が楽になるのが特徴です。

これは、重力で心臓に帰る血液を多少なりとも減らすのと、肺自体にも重力をかけると、水は下に、空気は上に行きますので、このギャップで、肺の上のほうでは水が少なく空気が多いという状況が生まれますので、この上のほうで、毛細血管が酸素化されることで症状が軽減されるのです。

 

急激に発症した強い呼吸困難と低酸素を訴える患者さんを救急搬送するときに、救急隊員が心不全だと判断したときには、患者さんを救急隊員が座らせて病院まで運ぶのはこのためです。