心不全の症状は、大きく二つに分かれます。
一つは、心房圧上昇によるうっ血症状で、もう一つは心臓から駆出される血液量が、有効循環血流量に満たないためにおこる低潅流症状です。
今回は心房札上昇によるうっ血症状についてお話します。
心臓の機能が低下すると、心臓が心周期(収縮して拡張して、また収縮を繰り返す周期)の中で、心室がもっとも拡張(収縮する直前の最も血液を蓄えた状態)した時の心臓の圧力が上昇し、心房の圧がそれに伴って上昇します。心房の圧があがると、心房へ血液を流し込むために、右心系であれば全身の静脈圧が、左心系であれば肺循環の静脈圧が上昇します。
毛細血管レベルでは、血液から必要な電解質やさまざまな物質が水の移動とともに、内皮細胞の間を抜けて(内皮細胞の間隙やカペオラなどの輸送機構によって)、間質、細胞へと到達します。この時の水の移動の血管から組織方向への移動の力が、主に静水圧といわれる毛細血管内の血圧です。
通常であれば、毛細血管から組織へ移動した水は、組織の間質(細胞以外の部分を間質といいます)にあるリンパ組織によって回収されて、リンパ管から最終的に静脈に流れ込みます。
(リンパ機能についても別項目で述べます)
静脈圧があがると、毛細血管の静水圧が上昇するため、組織の中に流れ込む水の量が増加します。リンパ機能で処理できる範囲での増加であればむくみませんが、それを超えるようになると間質に水がたまりだして臓器の浮腫が生じます。また、間質には、フィブロネクチンなどの線維性のたんぱく質があり、それが水を吸着して、それもある程度浮腫の出現を防いでくれます。加齢とともに、リンパ機能が低下し、フィブロネクチンなどの吸水性のたんぱくが減少するため、浮腫が起こりやすくなります。
このようにして、心機能低下により浮腫の症状が出現します。
浮腫が起こる臓器によって、症状が変わってきます。
四肢におこれば、いわゆる浮腫となります。
胸膜や腹膜におこれば、胸水や腹水となります。
肺に浮腫が起これば、肺水腫となり、ひどい呼吸困難を生じます。
肝臓であれば、あまり症状はありませんが、ビリルビンや胆道系の酵素の上昇があります。
腎臓であれば、糸球体ろ過率(尿を作る工程での一番最初の部分の能力)が低下します。
脳に関しては、毛細血管が緻密にならんでいるために、もともと水の出入り自体が静水圧によっていないため、脳うっ血という症状はないと考えられていますが、過剰な上昇では何らかの症状が出るかもしれません。重篤な心不全による、認知機能の低下などにも関係している可能性は否定できません。
では、これらの症状を起こす心室の拡張機能の低下はなぜ起こるのでしょうか。次はこれについてお話しする予定です。