心不全を中心とした循環器疾患に関する単なるブログ

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心不全のすべて(4:心室の拡張末期圧とは?)

心臓は、収縮する臓器でありますが、エネルギー自体は拡張するときに多くを使っています。心臓は拡張する臓器でもあります。

心臓が拡張するときには、心筋細胞内では細胞内のカルシウム濃度を下げることによって、心筋細胞内のアクチン・ミオシンという収縮蛋白の緊張がとれて、心臓が拡張していきます。アクチン・ミオシンは、エネルギーを使って収縮する仕組みを持っていますが、拡張自体は、積極的に拡張する方向への仕組みはありません。

英語で、この心臓の収縮後におこるいわゆる拡張をrelaxationといい、日本語でも弛緩という言葉を使うこともあります。まだ、わかっていないだけかもしれませんが、心臓は自分で積極的に拡張する仕組みはないのです。では、心臓を拡張させているのは何かというと、それよりも手前にある静脈系と、特に心室の手前にある心房による血液の押し込みです。

 

右心系でみていきます。

全身から上下の大静脈に集まった血液は、右心房に流れ込んで、右心室に到達します。

心室の収縮期には、心室と心房の間にある三尖弁という逆流防止弁は閉じていますので、帰ってきた血液は、一度心房内にたまります(開いている拡張期には直接心房から心室へ流れ込みます)。この時に、心房もまた、心筋ですので、弛緩して、柔らかくなることで、血液を受け入れて拡張していきます。この時の心房内に血液を流し込む、駆動力(driving force)は、全身の静脈圧です。

その後、心室の収縮期が終わって、拡張期になります。心筋自体の弛緩は、収縮期の最後の方で始まっているのですが、それにより柔らかくなって、圧が下がり始めた時に、まず、肺動脈との間にある肺動脈弁が閉まり、収縮期が終わります。そして、さらに柔らかくなることで、血液が貯まっている心房より圧が下がることで三尖弁が開いて、拡張期となり、心房から心室へ血液が流れ始めます。

心房から血液の流れ込む駆動力は二つあります。心室がやわらなくなり続けることによっておこる心房と心室の圧力差、そして、心房自体の収縮です。

心室が柔らかくなり心房から心室へ血液がながれることで、心室の圧力はあがりはじめます。そして、心房と同じ圧力になったときに、血液の流入はいったん終わりますが、同じ圧なので三尖弁はまだ閉じません。そして、心房が収縮することで、さらに心室内に血液を押し込んで、心房が弛緩し、心室のほうが圧が高くなることで三尖弁が閉鎖し、いわゆる拡張期が終了します。心室の収縮により、さらに圧が上昇していき、動脈より圧が高くなったときに、肺動脈弁が解放し、肺動脈に血液が一気に流れ込みます。

 

さて、心房が収縮して血液が心室に入り切ったときの、三尖弁が閉じる直前の圧を拡張末期圧といいます。実は、この圧が心不全の症状のすべてをきめます。

要は、この心室の中に、必要な血液が入り切ったときにいかにして圧を上げずに血液を受けとめきれるかというのが心筋の最大の特性といえ、これが破綻すると心不全の症状が出始めます。

 

心室の拡張末期圧が高くなると、平均の心房圧も上昇します。すると、全身から血液が返ってくるのに、より高い静脈圧がないと血液が心臓に戻らないため、全身の臓器の静脈圧があがり、臓器組織の毛細血管の静水圧があがります。

こうなると臓器に血液の水がしみだし、臓器浮腫がおこります。

臓器、組織の毛細血管の圧が上がることをうっ血といい、それにより臓器に水がしみだすことを浮腫といいます。

 

また、以前より、心房機能が心臓の駆出する血液の3割程度に寄与しているといわれていましたが、これは違います。心房の最大の仕事は、心房が働くことにより、心室の拡張末期圧を低く抑え、平均心房圧を低く保つことです。

心房が働かなくなっても、心臓からの心拍出量は変わりません(短期的には変わります)。心房機能の消失は、拡張末期圧を低く抑えるようとする機構の破綻です。