心不全を中心とした循環器疾患に関する単なるブログ

心不全について私が知る・思うすべてのこと

高血圧とは。そもそも血圧とは何か。治療はした方がいいのか。(18)

(ARB; アンギオテンシンII 受容体拮抗薬)

この薬剤は、日本でほんとによく使われています。

今まで何度もお話ししましたが、降圧を超える薬剤の差はほぼありません。

利尿薬の心不全予防と、ACE阻害薬の冠動脈疾患がある程度です。

こARBは、ACE阻害薬が使用できない患者には使用を考えるということになっていますし、本来はそうあるべきだったのですが、日本ではカルシウムチャネルブロッカーと並んでのツートップです。

今は、ジェネリックもあり、最も古いロサルタンの標準用量 50mgで、60円程度ですので、利尿薬やACE阻害薬に比べれば高いですが、だいぶと安くはなってきました。一番高いアジルサルタンは138円です。アジルサルタンは標準用量では、おそらくすべての薬剤で降圧効果がありますので、複数薬を飲まれるときには、これを選択するのもありかと思いますが、1、2種類であれば安い、または合剤をお勧めします。

 

さて、レニンが腎臓で産生されて、アンギオテンシンIIになるまではお話ししました。

ひとまず、アンギオテンシンIIが作用するための受容体であるアンギオテンシンII受容体(ATと略します)にはいくつかの種類があります。主要なものは、AT1, AT2です。これは、ざっくりというとアクセルとブレーキのように、作用が異なります。

血圧を上げたり、間質の線維化を起こす(細胞の間の間質に線維化が起こると臓器の機能低下が起こる)のが、AT1受容体です。そして、それに拮抗するように、血管を拡張させたり、線維化を抑制するのが、AT2受容体です。

 このような一つのホルモンが拮抗する受容体をもっていることはめずらしいことではなく、交感神経のベータ受容体もおもなもので3つあり、特に1と2がこのように拮抗しています。

一つの作用が、過剰になりすぎないように常に反対の作用も同時に活性化させてバランスをとっているのです。

 

では、ホルモンと受容体を基本から少し説明します。

まず、アンギオテンシンIIのようなホルモンは基本的に細胞(血管内側の内皮細胞など)が血管側に出している受容体という受け皿とくっつきます。カギと鍵穴みたいな感じです。そして、そのホルモンと受容体がくっつくと、受容体の形が変化して、細胞内へメッセージを送って、細胞内の特定の機能が活性化したり、不活化したりします。そして、組織・臓器として機能の変化が生じます。(血管が収縮したり、拡張したり)

 

細胞から血管側に頭を出したAT1受容体が、アンギオテンシンIIを待っていて、アンギオテンシンIIがやってきてくっつくと受容体が変形して、細胞内に機能変化をもたらすのです。これにより血管が収縮したり、腎臓の近医尿細管というボウマン嚢にかなり近い部分で、アンジオテンシンIIはAT1受容体を介して作用して、塩分を再吸収したりもします。

また、さらに、AT1受容体は、機械刺激という細胞の形が変化するようなストレッチレセプターの特徴もあり、アンギオテンシンIIがなくとも細胞がストレッチされると変形して刺激が伝達されるという特性もあります。

ちなみに、レニンの分泌もストレッチで抑制されます。

このストレッチというのは、かなり原始的かつ重要な刺激で血管とか浸透圧などを制御するのに、非常に重要な役回りをしますが、また、後日述べることにします。

 

さて、このホルモンと受容体で有名なところを一つ上げると、インスリンです。インスリンもインスリン受容体というものをもっていて、膵臓を通る血液の血糖が高くなると膵臓のベータ細胞からインスリンが放出されて(この血糖によるインスリンの放出自体に受容体はありませんが、他のホルモンと受容体は働いて調整しています)、体の肝臓やら筋肉やらのインスリン受容体と結合して、細胞内への糖の取り込みを行っています。糖尿病では、インスリンの分泌が何らかの理由でできなくな糖が取り込めなくなるタイプや、インスリン受容体のインスリンに対する感じ性の低下により多くのインスリンがないと受容体が作動して、細胞内にメッセージを送ってくれなくなるインスリン感受性低下が起こることによるタイプの2つのタイプがありますが、今は糖尿病の章ではないので、これくらいにします。

 

ちなみに、アンギオテンシンIIが最終の活性(作用することができる)をもつホルモンかというと実はまだ、酵素で切断されながら、生理活性をもちます。アンギオテンシンIIから、ACE2という酵素で切断されたアンギオテンシン1-7(実はアンギオテンシンIから別経路でもできます)がMAS受容体という、AT2受容体に似た作用の受容体とくっついたり、また、アンギオテンシンIIが別の酵素に切断され、アンギオテンシンIVとなり、これがAT4受容体と結合したりします。一応現時点でわかっている範囲ではこれくらいですが、今後、新たな発見があるかもしれませんが、わかりません。

 

ちなみに、ARBというのは、AT1受容体とAT2受容体に中途半端にくっついて、受容体という鍵穴の穴を中途半端にふさいで、アンギオテンシンIIという鍵がはまらないようにします。拮抗薬というのは、もともとあるホルモンと拮抗して、受容体にくっついて、受容体が本来のホルモンとくっついて刺激を細胞内に送れないようにするということです。

ちなみに、ARBとAT1受容体が結合するとストレッチによる刺激伝導も起こらないようです。

 

アンギオテンシンとAT1受容体が結合して、どうして血圧があがる(血管が収縮する)のかは、説明していませんが、これは完全に別の機会にします。今まで抵抗血管がとか、大動脈が機能的に硬くなるとかいいましたが、どうしてそうなるのかの説明が必要だと思いましたので。

 

話は戻ってARBですが、結果的にいうとACE阻害薬よりすごいというふれこみで上市されましたが、ACE阻害薬より有効であるという結果は一つもでませんでした。

そのため、あくまでこの系統の薬を使うときにはACE阻害薬が第一選択で、空咳や血管浮腫の時には、ARBを使うというのが本来のスタンスです。

もちろん、咳とか血管浮腫が絶対に初めから嫌というのであれば、安くなってきましたので、ARBを選択するのも悪くはありません。何しろ、高血圧治療は、何を使っても目標血圧(だいたいは140/90)以下にすればいいので。